東京高等裁判所 昭和24年(新を)1971号 判決 1950年7月07日
被告人
崔甲俊
外一名
主文
本件控訴はいずれもこれを棄却する。
被告人両名に対し当審における未決勾留日数中各百日を夫々その本刑に算入する。
当審における訴訟費用中国選弁護人中井宗夫に支給した分は被告人等の負担とし、その余は被告人等の連帯負担とする。
理由
弁護人中井宗夫の論旨第一点について。
原判決は事実認定の証拠として刑事訴訟法第二百二十七條に基く証人望月星斗に対する裁判官の証人尋問調書を採用していることは所論のとおりであつて、記録を調査すると刑事訴訟規則第百六十條所定の検察官よりの書面が記録中に編綴されていないが、この一事をもつて所論の如く直ちに右証人の尋問手続は検察官よりの請求に基き適法に為されたものでない違法のものであると断ずるのは早計であつて賛し難い。刑事訴訟法第二百二十七條の規定に基く裁判官の証人尋問は例外的の規定であるから、新刑事訴訟法の建前から云つて裁判官が検察官の請求がないのに同條所定の証人尋問をすることは考えられない。従つて本件においても反証のない限り、検察官から刑事訴訟規則第百六十條所定の書面による請求があつて然る後裁判官において前記証人を尋問し、その調書が作成せられたものと認めるのを相当とする。而して右刑事訴訟規則第百六十條所定の書面の如きは、別に法廷に顕出した後記録に編綴しておかなければならぬという規定も見当らないから、これを法廷に顕出せず、又は記録に編綴しなくも右証人尋問調書の証拠能力に影響はないものと認めるを相当とする。さすれば同証人尋問調書を証拠として採用した原審の措置は正当であつて、原判決には所論の如き採証の法則を無視した違法はない。論旨は理由がない。